世界で一番好きなもの。【短】
普段は落ち着いたタイプの花梨。
でも今日は本当の子供みたいにうろちょろしては、表情をコロコロと変える。
忙しい奴だな…。
そんなにクリスマスが嬉しいのか、はしゃぐ彼女を見ていると自分も顔が緩んで仕方ない。
俺は騒がしいのは得意じゃないけど、花梨が楽しそうなのは見ていてなんだか嬉しい。
確かに嬉しいんだけど…
やっぱり人混みは嫌いだ。
どんなに幸せでもやはり嫌いなものは嫌いなのだ。
『…ッチ』
花梨を庇うように歩いてることもあってか、さっきからやたらと何回も人とぶつかる。
花梨を変な害虫から守るためとはいえ、その不快感につい舌打ちが漏れた。
一方の花梨は、いまだご機嫌に俺の手を引いている。
…何で疲れないんだ…。
俺の中で女子という生物に対し、疑問が生まれた…。
それにしても…
どこを見てもクリスマス一色。
日が暮れたことで点灯されたカラフルなイルミネーションに陽気なクリスマスソング。
子供やカップルたちの笑い声。
そのとき、引っ張られるがまま周りを見渡していた俺の視界にも、あるものが映った。
それは、ベルを鳴らすサンタ、の格好をした若い女
ではなく、
その女性が売っているクリスマスケーキだった。