世界で一番好きなもの。【短】
その涙を親指で拭ってやれば、手が冷たかったのか、花梨は少し肩を震わす。
「なんで?花梨は悪くないでしょ。
花梨を怒らせて、ひとりにさせた俺が悪い。
全部俺のせい。」
だから泣くな。
そう耳元で囁けば、ズッと鼻を啜り首を横に振る愛しい彼女。
『あのね…?無理言ったのはあたしなの。
彰が寒いのも人混み嫌いなのも知ってるのに我儘言ったからなの。』
『彰は優しいから、あたしの我が儘も聞いてくれたけど…。
でもやっぱり、楽しくなさそうで…、
なのに、ケーキは嬉しそうに見てるのが悔しくて…ごめんなさい…。』
『あたし今日、彰が喜んでくれると思ってケーキ作ってきてたの…知らなかったでしょ?』
花梨の問いに俺は正直に頷く。
本当に知らなかった。
でも言われてみれば、花梨は家に来て早々冷蔵庫へ向かっていた。
あれ、ケーキだったんだ。
『…あたしのケーキじゃ駄目なのかな、って思っちゃって…。』
そう言って俯く花梨の手は震えていて。
堪らず俺は花梨を抱き締めた。
周りなんて気にしない。
ただ、今はこうしていたいと思った。