桜花散恋
「・・・・・」
「?どうかしたか?」
「いっ・・いえ!」
びっくりした。昨日、私がただ怖いと思っていた人は、こんなに整った顔をしていたの?
「よく眠れたか?」
「あ、あまり・・・」
「それもそうだよな。あんなの見たあとに、ぐっすり眠るわけでもねえよな」
ふっと笑った土方さんの顔は、女の私でもびっくりするくらい綺麗で―――・・・・
この世の物とは思えないほど綺麗な土方さんの顔にしばらく見惚れていると
「あんまり見んな」
そう言って土方さんは照れたような、微妙な表情でコホンと咳をした。
「あ・・!ごめんなさい」
そこで初めて自分が土方さんを凝視していたことに気がつく。
「いや・・・気にしないくていい。それより上衣と袴を持って来た、あんたの格好はここじゃ目立つから着替えろ」
そういうと土方さんは風呂敷の包みを私に渡した。
中を開いてみると、男物の青磁色の上衣と濃紅色の袴が入っていた。
「一人で着れるか?」
「はい、大丈夫です」
袴の着方なら、以前呉服屋に勤めていた祖母に教わったことがある。
「それなら、俺は廊下で待ってるから着替えたら声をかけてくれ」
「分かりました・・・あの、着物用意して下さってありがとうございます」
「・・・ああ」
私が礼を言うと、土方さんは一瞬目を見張って少し微笑んだ。
それからポン、とわたしの頭を叩き、廊下に出ていった。