桜花散恋
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「あ、あの・・・」
井戸のところにつくと彼は座って洗い始めた。
斎藤さんは持っていけとはいったけどここまでしろとは言ってない。
「真之介」
「え?」
「俺の名前だよ!さっきからあのあのって。俺は『あの』じゃねえよ!」
「ごっ、ごめんなさい・・・?」
手を動かしながらも彼は声色を変えず続けた。
「・・真之介・・くん、・・・」
そうつぶやくと彼は一度だけこっちを見た。直ぐに視線は洗濯物に戻されたけど。
「呼び捨てでいいよ。多分俺の方が年下だし」
「何歳・・・?」
「十五」
「十五?!」
「何」
「あ、いや・・・その・・・・」
睨みつける視線は相変わらず。声色は少しだけ勢いを落とした。
「随分若いんだなって思って・・」
「俺がこの新選組の最年少」
「そう、なんだ・・・」
「・・・あんたの名前は?」
「古雅、葉月・・・」
へえ、と言ったきり真之介・・くんは隊服に視線を戻し黙々と洗う。
その手つきは十五の男の子とは思えないくらい手慣れていて驚いた。