桜花散恋
「・・・葉月も洗えよな!」
「(!)うっ、うん!」
真之介くんの隣に座り、隊服を洗う。そして今更になって気づいた。
「あ」
「・・・何」
「少しだけ、口のとこ切れてるよ・・・?」
「・・・・・」
真之介くんの口の右端。近くで見なきゃわからないくらい小さなもの。
私の言葉のあと、真之介くんの手が止まる。
「・・真之介くん?」
「・・・今日、巡察で浪士が店で暴れてんの見つけて、中で女将さんが絡まれてたから止めに入ったら『ガキはすっこんでろ』っていって殴られた」
真之介くんは少し考えるようにして憎々しげにその傷の原因を告げた。
「ガキだって言われてムカついた。だけど、ガキだって言ってくる奴らに殴られた自分にも腹が立つ」
「真之介くん・・・」
そう語る真之介くんは切れている唇の端をキュッと噛む。悔しさがひしひしと伝わってきた。
「・・・だから、さっき斎藤組長にこの仕事言われたとき、あんたに当たっちまった。悪かった」
「・・・ううん。いいよ」
最初は少しきつかった彼の口調は幾分穏やかで。ちゃんとこうして理由を教えてくれた。
話してくれた、ただそれだけが今の私にとってどれだけ大きいことか。