桜花散恋
「早く寝るんだよ」とお梅さんは言って自室に帰っていった。
私もその背中を見送り、自分の部屋に帰ろうとした。
私の部屋は、新撰組隊士が出入りする玄関を通り過ぎ、さらに奥に進んだところにある。
長い廊下を歩いていると玄関のところから声がした。
「どけ!國弘(くにひろ)!」
「駄目です!」
「組長命令だ!」
「僕は土方さんから言い付けられているんです!!」
言い争う二人の声が聞こえる。
――声の主は一人・・・永倉さん?
二人の口調に思わず足が止まる。
「別にいいだろ!?ちょっとくらい!」
「そんなこと言って、ちょっとじゃなくなって泥酔して帰って来たことが過去、何度ありました?」
「・・・・わかった!酒は呑まない!だから―――・・」
「酒も呑まないのに島原に行ってどうするんですか?女の人を買うとか?」
「違ぇよ!!大勢を連れて呑みに行ってる親友の左之が、金が足りなかったときのためにだなぁ・・・」
「原田組長はそんなヘマはしないと思うんですけど」
「とっ、とにかく俺はだなぁ!――――・・」
言い争いの焦点はだいたいわかった。
島原に行こうとする永倉さんを彼の部下が引き止めているみたいだった。