桜花散恋
「・・・今はさ」
「え?」
少し目の前が霞んで、國弘さんの手が頭に乗る。
「今はなかなか会えないだろうから、俺が葉月ちゃんの兄さんでもいいかな?」
「國弘、さん・・・」
大きな手がぽんぽんと頭をなでる。長身の彼は少しかがんで私に目線を合わせてくれた。
「だからそんな顔しないでよ。俺たちにどんどん頼ってくれてかまわないからさ」
國弘さんに言われて自分がどんな顔をしていたのか思い知らされる。
私ははっとして涙がこぼれそうになるのを必死にこらえて、うなずいた。
そんな私を見て國弘さんは頭から手をおろした。
「もう遅いから早めに寝るんだぞ?」
「はい!・・・じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
國弘さんと別れ、部屋に帰ってからも頭に残る彼の温かさは消えなかった。
―――・・幸親君、
―――・・真之介君、
―――・・國弘さん。
三人のことを考えていると、いつも寝る前に心に生まれる不安も、今日ばかりは治まっていた。