桜花散恋
そんなある日のことだった。
「葉月ちゃん、ちょっといいかしら」
「はい!なんですか?」
朝食の片付けを済ませ、部屋にいると、襖の向こうからお梅さんの声がした。返事をすると襖が開いた。
「少しお遣いを頼みたいんだけど、行ってきてくれる?」
「いいですけど…私が、ひとりで?」
「そう。私は今日用事があっていけないのよ」
「………土方さんは、」
「大丈夫、土方はんの許可は取ってあるわ」
以前、お梅さんと二人で買い物に行こうとしたときに、土方さんは私の外出に対する許可を渋った。
お梅さんや、近くにいた近藤さんの説得によってどうにか許可を得ることはできたけど。
新選組預かりという立場の私が、お梅さんと出掛けて何かあったとなると困るというのが土方さんの言い分だった。
それはつまり、土方さんがそこまで神経質にならなければいけないほど、京の治安は不安定だということだった。
「私、行きます!」
「ありがとう、葉月ちゃん。この前行った場所はわかる?」
「はい。覚えてます」
「買ってくるものは紙に書いておいたからお願いね」
気をつけるのよ、というお梅さんの声に、振り返り手を振って、私は初めてのひとりでの京散策に繰り出した。