桜花散恋
江戸の町はいつ見ても賑やかだ。
暦ではもう冬だというのに、どこもかしこも人の波が途切れることなく、わいわいとした活気が町を包んでいる。
「おっ!葉月ちゃんじゃねーか!」
ふと、葉月はちょうど横にある露店から声をかけられた。
葉月が露店の中を覗き込むと、以前町にお梅と出かけた時に知り合った野菜売りのおじさんが、にっこりと笑って葉月を見ていた。
「あっ!おじさん!」
「いや〜、やっぱり葉月ちゃんだったか。今日は一人かい?」
「はい!お梅さんに買い物を頼まれて」
「そうかいそうかい。しっかし、一人で出歩いても大丈夫なのかい?葉月ちゃんはおっちょこちょいだから、気ぃつけるんだよ」
ガハハと豪快に笑われて、葉月はうっ…と言葉に詰まった。
露店のおじさんには、最初に町に買い物を出かけた時に知り合った。その時、お梅に紹介してもらったのだが…挨拶しようとしたら、勢いが良過ぎて噛んでしまった。
そして、それを聞いたお梅さんを始め、おじさんや周りの人たちの笑いを誘った―…という、葉月としては今でも思い出すだけで赤面してしまう失態を曝してしまったのだった。
「……大丈夫ですよ!」
「…葉月ちゃん、返事するまでに時間があったぞ?」
「そ、そんなことないですよ!じゃあ、また来ますね!おじさん」
「あぁ、楽しみにしとるよ」
孫を見るよう優しく微笑むおじさんに、次に会う約束をして葉月はまた江戸の町を歩き出した。