桜花散恋




「!………葉月か」




花を見ていたのは三番隊組長の斉藤さん。

普段から隙のない彼には珍しくぼーっとしていたみたいで驚いた様子で私を見る。近寄ってみて、咲いていた花が椿だと気づく。とてもきれいで私も思わず溜め息をついた。




「うわぁ……すごく綺麗ですね」

「ああ。……それより、どうしてあんたがここにいるんだ?」

「おつかいの帰りなんです」

「そうか」




椿の花を見たのはおじいちゃんとおばあちゃんの家に行って以来だ。二人とも椿が大好きで、よく手入れされた木が庭にあった。




「あれ?そういえば椿ってこの季節でした?ちょっと早いような……」

「確かにこの木は早咲きだな。普通はもう少し遅い」



足元を見れば落ちた椿が、通行人たちに踏まれて部分的に茶色に変色している。
それでも萼から花がまるごと落ちてしまった椿は凛として見えた。


花びらを散らしていくのではなく、綺麗な形のままで木から離れ、花としての一生を最期まで全うしようとする、椿はそんな花だ。





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