桜花散恋
晦日と初詣
大晦日の除夜の鐘が鳴る。
屯所の人々がみんな大広間に集まって、年越し蕎麦を食べながら新年を迎えた。
「「「明けましておめでとう!」」」
それからはもう、なんというか…恒例の宴会状態に突入。
私たちは小料理を作ったり、お酒の追加を持っていったりと、台所と大広間を忙しく行き来しててんやわんやだった。
「葉月ちゃ〜ん、お酒持ってきて〜」
「わぁっ!幸親くん!飲み過ぎじゃない?もう止めた方が――…」
「えーっ…そんなに酔ってないよ?えへへー」
大広間に料理を持ってきた葉月に、後ろから勢いよく抱きついてきたのは、2ヶ月前ほどから仲良くなった幸親くんだった。
幸親くんは体重をかけるように覆い被さって、赤い顔に満面の笑みを浮かべてそう言った。
うぅ、重い…
全体重をかけてあるだろう幸親くんは成長途中とはいえ、立派な男の子だ。
料理を持ったまま、幸親の重さに潰れそうになった時…
「こら、幸親!葉月ちゃんが潰れてしまうだろ!」
「うぅーっ…」
「ありがとうございます、國弘さん」
危うく畳に倒れ込みそうになった葉月を助けたのは國弘さんだった。
幸親と仲が良く、葉月のことも何かと気遣ってくれる優しい人だ。
「葉月ちゃん、迷惑かけてごめんね。幸親、部屋戻るぞ」
「まだー飲みたーい」
「こら!明日も巡察あるんだぞ」
「えっ!元旦も巡察があるんですか?」
の言葉に葉月が驚いて声を上げると、國弘は「そうだよ」と苦笑した。
なんでも元旦ということで羽目を外して暴れる人も多いようで、そういう人々を取り締まるそうだ。
じゃあ、初詣は一緒に行けないのかな?
「あぅーっ…あー葉月ちゃん、おやすみー」
「あっ、おやすみなさい」
葉月が考え込んでいると、千鳥足で歩く笑顔の幸親と國弘が葉月に軽く会釈して大広間を出ていった。