桜花散恋
「えっ!?土方さん?!」
翌日の1月2日。もう少しで日も暮れようとしている夕方。
予想しなかった人物の姿に思わずすっとんきょうな声を上げた。
時は、その日の昼に戻る。
午後のお茶を配り、そろそろ夕食の準備に取りかかろうという頃。
部屋に居た葉月の元にやってきたお梅は、「はい、これに着替えて」と、真新しい薄紅に色とりどりの毬が描かれた振り袖を差し出した。
「えっ…私いつも通りの格好でいいですよ」
新品と思われる着物に受け取っていいのか…と葉月が躊躇っていると、お梅は「いつも頑張ってくれてるから、これは私からのご褒美よ」と笑って、葉月の手に着物を強引に置いた。
「えっ…でも…」
「いいから、受け取って、ね?」
しぶしぶ葉月が着物を受け取ると、「着替えたらら、屯所の前の門に行ってね」と颯爽に部屋を出ていった。
うわぁ!可愛い!!
未だに慣れない着物を苦心して身につけて、鏡台を覗くとそこには町娘風に装った自分の姿があった。
せっかくだから…と長い髪を緩く結い上げて右側に流す。以前お梅から貰った南天の簪をさして、紅を塗ると、我ながらいい出来映えになった。
屯所の前の門に行けばいいんだよね?
賽銭用に、と小銭を緋色の巾着にいれると、いくぶん足早に指定の場所へと急ぐ。
屯所の門が近づいてくると、門の前に人影が見えた。
あっ!
もしかして、一緒に行ってくれる人かな?
お梅が付き添いを誰かに頼むと言っていたことを思いだしながら、門の近くまで行くと、はっきり見えた人物に思わず声を上げる。
――…そして、冒頭に至る