エリートな貴方との軌跡
今も仕事をこなす彼を思えば、私だけがこうも楽しんで良いのかと申し訳なるけれど。
“折角のフリーは楽しまないと損だよ”と、チーフに背中を押されては仕方が無い…。
「ホント、“シュウ”と早速ラブラブなトコ見せつけてたわねぇ」
「もー、言わないで…」
見せつけていた訳でもなく、すっかり場所を忘れていただけの失態だったというのに。
思い返せば返すほどドキリと鼓動が高ぶるから、私の心臓と感情こそ問題のようだ。
「ふふっ――やっぱり日本人は“奥ゆかしい”のね。
…あ、この日本語はチーフに教えて貰ったの。合ってるでしょ?」
「うん、合ってる…けど。…どうしてチーフは“チーフ”呼びのままなの?」
食事の手を止め辛めの白ワインに少しだけ口をつけると、率直な疑問をぶつけてしまう。
「あー、そんなの私が居るからよ」
「・・・どういう事?」
「だって、“リリィ”と“リー”なんて紛らわしいもの!
とか言ってぇ、マホはヤキモチ妬いていたんじゃないのぉ?」
どうやら大神チーフが名前は、吏人(リヒト)だから、呼びにくい事が理由のようだ。
「ななっ、違うよ…!」
「アハハ!シュウの言ってた通りなのね」
楽しそうに笑って茶化すリリィは、どことなく親友の瑞穂のような性格だからか。
会って未だ間もないものの、お酒の力も相俟って陽気なディナータイムだったけれど。
「…だからマホ。これから、ジョシュアには注意した方が良いわよ」
突然に何故か真剣にブラウンの瞳で諭すリリィの発言で、ゴクリと息を呑んでしまう。