エリートな貴方との軌跡


その真意を尋ねようとしても、“今日で分かったでしょう?”と言葉を濁すだけで。



飄々としたリリィに口を尖らせていれば、“ソレも餌になるわね”と飽きられるばかり。



イチ聞いて百を教えてくれないトコロがまた、本社の人間らしいと納得させられた…。



陽気なリリィとのディナー・タイムを終えた私は、タクシーでペニンシュラへと戻る。



彼が気遣いしてくれた通り、立地や常にホテル従業員が居るという面はすごく安全だ。



カード・キーで部屋へ入室すると、気を張っていたせいなのか疲れがドッと押し寄せて。



バッグをソファへ置いてから、スーツスタイルのままでベッドへその身を投げ打った。



「…はぁ、」


“溜め息を吐き出した分だけ幸せが逃げる”と、松岡さんからよく言われているせいか。



滅多に吐かない溜め息だというのに、今日はシンと静まり返った室内で虚しく響いた。



確かに日本でもクタクタで帰宅する事が常だけれど、この状況とは明らかに違うと思う。



何というのか…初日で本社の風潮に圧倒されて、心身が疲弊したというのが正しい。




「…あ、シャワー浴びなきゃ」


うっかりウトウトしていた私は重い身を起こし、ルームシューズでバスルームへ向かう。



メイクをオフしようと鏡面に向かえば、そこには疲れた表情の自身が映っていて嘲笑だ。



持参したロクシタンのソープの香りで癒されながら、シャワー・タイムで浮かんだ事は。



サッパリしたリリィとは仲良くなれたものの、他の人の性格はまだ何も見えないし。



何よりも久しぶりに現場に立った修平が、あんなにも楽しそうな表情をするなんて…。



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