エリートな貴方との軌跡
場合によってはCTOのご機嫌を損ねかねないものの、口元を緩めて画面を注視する彼。
その発言を受けたCTOといえば案の定、ほぉ…と挑発的な視線をこちらへ送って来た。
「――シュウ、発言には責任を持てるのか?」
「ええ、もちろんです。
でなければ――自身にある肩書きなど、始めから意味を成しません」
ダークグレイのクリアな瞳がそう畳み掛けたものだから、周囲の者は一斉に目を見張る。
それはつまり、“何かがあれば”自身の職を解かれる覚悟があってのものということだ。
スクリーン上に映し出されたCTOと修平は暫し、表情を硬くして対峙していたものの。
すっかり静まり返った互いの会議場を、軽快な笑い声によって刷新したのもCTOだ…。
「うん、よく言った!それでこそシュウだ」
「…ありがたいですが、身に余るお言葉ですね。
俺は昔から、Rafe (レイフ)にはまったく歯が立たない」
「52歳の中年ちょい悪オヤジが、力量でもオマエに負けてたまるか」
「――中年ちょい悪オヤジって…、それ教えて来たのは大神では?」
「ああ、そうだ――確か、“オシャレな働く男”とかいう意味らしいな」
「…まったく、」
鼻を鳴らしたようなCTOの態度に、どうしてか修平が大きな溜め息を吐き出している。
ロンドンに住んでいた私はすぐ、彼らが切り替えた言語をイタリア語と判別したけれど。
残念なことに単語が辛うじて分かる程度であり、日常会話を理解するには到底及ばない。
英語からポンと軽快に切り替わった言語は、どうやら私たちに聞かれないためのようで。
とても流暢なその会話に本社と支社の人間は、会話の内容が探れずに首を捻るばかりだ。