エリートな貴方との軌跡


先ず始めてみるのが試作部のモットーだからこそ、気持ちで負けてなどいられないのだ。



それには念密な計画を立てるのはもちろん、予算の取り付けなど行うことが非常に多い。



物事をプラスに転じさせるのはすべて自分次第、だと今は強く思うから引くより動けだ。



分からないのを不安に感じていたら何も始まらない。まして、そこから進めないもの…。



「ええと、算定結果が…」


間違えないようにと思うほど、ブツブツ呟きながらタイピングしてしまうのは最早クセ。



あと20分以内にこれを完成させ、アリスのところへ持っていかなければ間に合わない。



焦り出しているのも本音だけれど、弱音を吐く時間があればこの手を動かすのが先決で。



目下作成中の用紙が完成すればOKだと、ポジティブ思考に切り替えるのは容易なもの。



これは修平や松岡さんをはじめとした、“やれば出来る”精神で鍛えられたからだろう。



研究のウエイトが高かった業務も年齢が上がるにつれ、デスクで行う内容が増している。



秘書課から異動して数年経っており、当初は不慣れな部分が多かったのも事実だけれど。



それも致し方のないことで、むしろ仕事の幅が広がっているのだと修平が言ってくれた。



書類ひとつをひどく面倒なものか、はたまた今後に繋がるものと捉えるかで違って来る。



何においても丁寧な仕事ぶりの上司に鍛えられたことは、私にとって大きな財産だろう。



ザッと見直しを終えプリントアウトをすると、完成したレジメを手に試作部を退出した。



セルジオ・ロッシの靴を鳴り響かせて向かった先とは、重役クラス専用のエリアである。



「失礼します――お待たせして申し訳ありません」


「いや、急がせて悪かった――ありがとう」


アリスと打合せをしていた修平へ直接手渡せば、ダークグレイの瞳の優しさに安堵した。



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