エリートな貴方との軌跡


念のため支社から引き出した資料について、口頭で簡単に述べれば私の話に頷いたあと。



フッと弧を描いて微笑されれば、寸前までのバタバタ加減が嘘に感じられてならないわ。



「真帆の得意ドコロだから、もちろん信頼しているよ」


全体のチェック後、要点項目をパラパラ捲りながら不意に名を呼ばれればドキリとする。



肩書きに甘んじることなく、とかくストイックな仕事姿勢の狭間で見せる笑顔は反則――



モスグリーンのストライプ・ネクタイに白シャツは爽やか、だと本日のチョイスは正解。



クールな雰囲気の彼のスーツ・スタイルは、瞳とリンクするグレイがベストだけれど…。



「それでは私はこれで…、打合せ中に失礼しました」


「いや、ありがとう」


「ありがとうね、マホ」


修平に次いでアリスにも笑顔で頷き、パーテーションで区切られたそこから踵を返す私。



もう一度頭を下げてから部屋を退出すると、昔と変わっていないゲンキンな自身に笑う。



どれほど自身が多忙を極めていても、決して周囲への労いや感謝の気持ちを伝えている。



この実直な姿勢に触れて学んで来た支社のメンバーは、修平のことを信頼しているのだ。



上司で部署の覇気が違う、というのは本当だと思うな。少なくとも試作部がそうだもの。



きっとあの資料を携えて会議に臨む彼は、部下の頑張り以上のものを表してくれるはず。



ううん…、100パーセント以上と言える形で発信してくれる、と今回も思っているの。



こうした信頼関係が成り立っているからこそ、支社としてプライドは持ち続けていたい。



技術力の向上のみならず、人材育成も成されて来た支社はアジアの中核を担えるのだと。



フロアにコツコツと靴のヒール音がテンポ良く響けば、清々しさがまた取り巻いていた。



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