エリートな貴方との軌跡
ひと仕事を終えてループバスに乗り試作部へ戻ったところ、見慣れぬ男性の姿を捉えた。
というより、正確には入室不可の入り口で、セキュリティ・システムに困惑している彼。
私はミニ・バッグに納めていたIDカードを取り出しながら、その男性の元へ近づいた。
「Hello.How can I help you?(いらっしゃいませ、どの様なご用件でしょう?)」
こちらへ来て数日とはいえ、大抵のメンバーは覚えていた私。そのため声を掛けてみる。
本社のメンバーの中でアジア系の方は唯一、大神チーフのみだと分かっていたがためで。
黒髪に真っ黒な瞳を持つ日本でよく見慣れた顔立ちも、こちらでは珍しく感じてしまう。
「Hello.I'm Atsumu Taira..」
「あ、やはり日本の方だったのですね」
日本人で間違いない、と考えてはいても。やはり相手の名前を伺うまでは日本語はNG。
ホッと笑顔を見せると同時に提示された名刺で、ようやく相手の素性も知ることになる。
「ええ、そうです。御社のMr.Joshuaからのご依頼品を持ってお伺いいたしました。
日本支社の松岡さんよりご連絡を頂戴したので、これの納品かねがねご挨拶をと…」
「そうだったのですね。いつもアチラでお世話になっております。
私、日本支社の吉川と申します。今はこちらへ出張で来ておりまして…」
こちらも携帯していた名刺ケースからそれを差し出したが、なぜかジッと見つめられる。
不快に感じるようなイヤらしさでなく、何かの疑問が取り巻いているかのような平さん。
「――もしかして…吉川さんって、松岡の部下の?」
「…ええ、そうです。松岡は私の直属の上司ですよ。
あの、私も…大変失礼ですが――松岡さんがよく仰る、…“ピン”さんでしょうか?」
「ハハッ、そうそう!まったく訳の分かんない呼び方だよね」
記載された社名にはよく見覚えがある理由は、この平(たいら)さんが指す松岡さんだ。