エリートな貴方との軌跡


もちろん素性の知れたことで、平さんには所定のセキュリティ・チェックを受けて貰う。



日本以上の厳重さはさながらアメリカといったところで、見習うべきなのかもしれない。



とはいえ、セキュリティが厳重になればなるほど部内での規約も増えて面倒ごとが増す。



だからこそ修平が言っていた、“厳重さより意識づけが大切だと思う”は私も同感だ…。



それから携帯電話でジョシュアを呼び、彼を待つ間に部内の接客フロアで話に花が咲く。



すべてに合点がいき、なおさら通じる人物が知り合いであれば異国の地では盛り上がる。




「…そうそう。“平(たいら)って言い難いから、ピンで良いよね”とか言われてね。

アイツ――松岡から大学の時に命名されたの。初めは意味分からなかったんだけどさ。

ほら、中国語で平は“ピン”って言うしね…アイツらしいセンスだよ」


「…ふふっ、そうなんですね。

私いつも松岡さんから、“ピンくん”と伺うだけでどういう方か不思議だったので…。

どういった方かお聞きしても、“名前の通り”って詳しく教えて下さらないから」


新たな化学薬品にチャレンジする際は、ピンくんのアドバイスが不可欠と仰る松岡さん。



話の中ではよく登場していたものの、その人物像についてはスルーの彼に流されていた。



だから今日、初めてお会いしたことで、ようやく“ピンくん”の正体知ったりな気分だ。



「でしょー?まったく喰えない男だよね?

つーか、名前だけ聞くと知らない人には中国系って思われるし」


「ふふ、本当ですね。松岡さんには部下の私たちはとても敵いません…色々な意味で、」


「ハハッ――吉川さんナイス!」


「これでも黒岩部長と松岡さんの部下ですから、口頭術も学ばせて頂いております」


「黒岩先輩かぁ…、懐かしいな」


すべて軽快に返してくれる彼は頭の回転が速いことがよく分かるうえ、この一言もまた。



私の知らない修平や松岡さんの大学時代を匂わせているから、なおさら興味津津になる。



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