エリートな貴方との軌跡
試作部特有のパーテーションで区切られた空間で、いま起きたコトを知るのは3人のみ。
でも動揺にかられた私は、立ち眩みにも似た状況でも彼との距離を取ることが先決だと。
傍らで唖然としているリリィの背中を盾にし、最低なアイス・ブルーの瞳を極力避けた。
そんな非力さを披露すれば、今度はクツクツと愉快気な笑い声が耳障りな音として届く。
「な、何が、可笑しいのよっ、」
「…そうよジョシュア。アナタ今、自分が何したか分かってる?」
確かに残るイヤな感触をそれがまた助長するため、攻撃が最大の防御だと問い質した私。
すると我に返ったようにリリィが声を上げ、彼に近づかせないよう背筋をピンと伸ばす。
「マホってホント、妙なところで固いよねー。俺が自分のしたいコトして何が悪いの?
それに、たまたま居合わせただけのリリィに関係ある?」
「マホの気持ちを無視するアナタこそ、とやかく言う権利なんてないのよ!」
咄嗟に頼ってしまった自身の行動を悔いながらも、彼女の優しさがとても心に沁み渡る。
「ハッ、マホの気持ち?それこそ愚問――オレの話聞いてないじゃん。
ていうか、マホもマホだし。…普段はブレないだの何だのほざいて、肝心な時は押し黙るなんて都合良すぎ」
「ちがうっ!私はここが職場だから…今は言うべきじゃ、ないって」
自分のせいでリリィが言われるのは我慢ならず、匿ってくれた彼女の背から飛び出した。
「職場とか言って、オフィス・ラブを堂々と持ち込んだのはダレだよ?
あんなの、軽い挨拶じゃん。キスひとつで動揺する方がオカシイし。
あ、むしろ“もっと”続きしたくなった?――俺と」
「やめてよ!」
か弱いなんて思われるのが嫌なのに…、これは悔しくて仕方なくても負け惜しみと同じ。
仕事中だからと心に必死にセーブを掛けていたけれど、嘲笑に遭えばジワリと目が痛い。
「――どういう意味だ、それは」