エリートな貴方との軌跡
引き寄せられるようにして顔を引き上げ、捉えたのはいつになく冷静な面持ちの修平だ。
それでも彼のダークグレイの瞳が向けられているのは、真正面に位置するジョシュア…。
ただ、ビジネスの顔とは訳が違った。それは一切の温かみを感じられず、威圧的なせい。
何より、私も今まで一緒にいて初めて見たその表情に、ますます言葉が出て来なかった。
「そんなことワザワザ宣言する?」
「牽制しないと、今にも手が出かねない」
「へえ、殴ればイイじゃん?そしたらアンタは」
懲りずに口角の端を持ち上げたジョシュアの態度に、修平がグッと拳を握ったのを見る。
「だ、ダメっ…、修平!」
「真帆、」
それが出てしまうより早く、ギュッとその腕へ縋りついていたのは本能的なものだった。
名前を呼んでくれた彼の声音は幾分の落ち着きを見せ、ホッとしながらも腕は外せない。
ジョシュアの言わんとすることが分かる――修平の立場が危ういものになるという意味。
「あんなのっ…、キスでも何でもない!
だからっ、だから…修平は、自分を傷つけないで、…ね?」
か細い泣き声は女の弱さを見せていると分かっていても、構わずに伝えたいことがある。
人を傷つけることを嫌うヒトだからこそ、あとあと後悔によって苦しんで欲しくはない。
康太さんの件でずっとずっと苦しんで来た貴方は、誰よりも優しい人だと知っているし。
「ああ分かった、手は出さないよ」
「ご、めんねっ、私が…」
「真帆が泣くと、やっぱり辛いな」
そう言って泣きじゃくっている私を、この腕でギュッと収めてくれた温かい人だもの…。