エリートな貴方との軌跡
涙を収めようとしても動揺する最中で理性は利かず、爽やかな香りに甘えてしまった私。
社内恋愛を大っぴらにする行為を嫌う修平に同感でも、とても泣き止むことが出来ない。
疾しい事なんてなにひとつない。むしろ、彼を傷つけたであろう自分が許せなかった…。
「鬱陶しい」
パーテーションで区切られた一区画内で再び、ヒヤリと空気を冷たくさせる声が響いて。
背中に投げ掛けられたその声音にビクリとしながら、修平との距離を取って振り返った。
その先で捉えたのは、いつの日かに見たあの何の色も成さない無表情なジョシュアの眼。
正直言って、これほどに冷たい瞳と対峙したことない。だけれど逃げるのは最も嫌い…。
「ジョシュア、なに…が?」
鼻をグスグスさせて声を出すと、やはり不安の色は隠せないものの目は逸らさなかった。
「見てるとホント疲れる――そもそもマホもアンタも、何もかもが中途半端すぎ」
これでも年上だし、キャリアも支社とはいえジョシュアより上の者に対する発言でない。
「そんなヤツ、どこが良いワケ?マホを甘やかして、その割に肝心なところで黙って。
結局は同じ部署に居るだけ、中途半端にマホのキャリアの妨げさせる“原因”じゃん」
中途半端もまた負けず嫌いとして許せないフレーズゆえ、それはグサリと胸を突いたが。
ショックなんていう生ぬるいフレーズではなく、言いようの無い怒りが込み上げたのだ。
私は若輩者だし何か言われて当然、でも修平は違う――最後の言葉が限界を越えさせた。
「――いい加減にっ、」
「ああ、そうだな」
とても我慢ならず、怒り任せにジョシュアに立ち向かおうとすれば心地良い声が制した。