エリートな貴方との軌跡
牙をむくジョシュアに対し、今度は綺麗な顔立ちをフッと緩めてスマートな笑みを零す。
「真帆には部下として、…そしてプライベートでも辛い思いをさせているだろう」
「へー、認めんの?潔い紳士(ナイト)だねー」
「ちがっ、」
“そんなのデタラメだ”と口を挟むつもりが、大きな手が立てられてそれを制された私。
「――その辛い思い以上に、彼女は今が幸せと言ってくれるから、俺はそれが幸せだ…。
彼女の幸せを願うからこそ上司に徹しているのであり、それは社会で至極当然のマナーである。
しかしながら、真帆が苦しむものを排除したいと思うのは、男として当たり前のこと――
先程ジョシュアを殴りたいと思う手を、ギリギリの所で引っ込めることが出来たのは…。
結局のところ彼女の人を思いやれる優しさのお陰だったし、…真帆には頭が上がらない」
「ち、がう…よ」
「違わないよ。昔から俺は、真帆ちゃんには敵わない」
「ご、めんね…わ、たし」
「フッ、…泣くほど俺のキスが恋しい?」
思わず日本語で否定していたのに、それをフッと笑っておどける修平の胸に飛び込んだ。
当たり前だよとさえ言えず、コクコク頷くばかりでも頭を優しく撫でてくれて安堵する。
「ハッ――反吐が出る」
「ああ、どう思われても結構だ。仕事が出来ればプライベートが充実するなど、…今の俺にはとんでもない話――
俺は大学入学から就職後もずっと、何も囚われずにひとりが良いと思い込んでいたが。
真帆に出会ってから、愛すべき者のいる毎日の安心感を始めて教わったし、守るべき者がある強みも学んでいるよ。
今もこれからもずっと、日々が勉強で――彼女と出会えて幸せなのも、結局は俺の方だ。
そんな訳で悪いがジョシュア…。真帆に何かあれば俺は、全力で彼女の幸せを守ることに尽くす外ない。
もちろんようやく会えた、こんなに愛しいレディを離すほど、もう若くないけどな…」
その質はひどく落ち着いており、これぞまさにトップに立つ者が持つ力なのだと感じる。
同時にホッと一息ついていたのは、無意識に修平に甘えてしまっているがゆえだろう…。