エリートな貴方との軌跡
それを言うなら私の方が、もっと前から“修平バカ”と伝えるのはまたあとにしておく。
“行って来ます”と告げて2人から離れると、ヒール音をカンカン軽快に鳴らして走る。
やはりパーテーションひとつを隔てただけのやり取りは、試作部内へと漏れていたよう。
チラチラと向けられる視線を感じつつも、気づかないフリをして“すべき事”をしたい。
修平が会議を終えてなぜ駆けつけてくれたのか、…それもまた、あとで聞きたいけれど。
恋愛ウエイトが高くなっていても、今すべき仕事を優先させたのはポリシーがあるから。
新人の頃のようには出来ないけれど、これからもなりふり構わなく走れる人でありたい。
責任と重圧を更なるパワーへ変えゆく彼との出会いが、私の価値観も変えてくれたもの。
外で試作部の駐車スペースを見ると、ジョシュア専用車のプリウスは朝のまま停車中で。
今さら考えれば彼について何も知らないのだと気づき、駐車場で大きな溜め息を吐いた。
見切り発車するとか、勘違いをよくするとか、昔から言われて来たけれどもはやクセだ。
すると空いていたスペースへ静かにもう一台のプリウスが納まり、運転席のドアが開く。
「真帆ちゃん、こんなとこでどうしたの?」
「…あ、大神チーフ。お疲れ様です」
「そちらこそ」
軽快なアロハシャツでなく、会議直後とあってスーツ姿にサングラスを掛けた大神さん。
褐色肌によく似合うサングラスも、ブラックのスーツで合わせるとSPの印象を受ける。
「で――その様子だと、問題児に何された?」
「…あ、と」
「ていうか、修ちゃんキレたでしょ?」
いま会ったばかりだというのに、こう何もかも知り尽くしているチーフの存在は脅威だ。