エリートな貴方との軌跡
それでいて何も返す術が見当たらないのだから、結局チーフの問いに言葉を濁すばかり。
真っ直ぐ向けられた眼差しが此方の心を見透かすようで、重石が掛けられる気分に陥る。
と言っても根がポジティブな性質ゆえ、修平が敵わないらしい相手と開き直ってはいる。
「恐れ入りますが、不器用ですから人の料理など出来ません。
…ただ、彼に話をしに行くだけです。このままだと互いにすっきりしませんから」
これはうそ偽りのない、本当のこと。ゆえに、このまま放置して関係を拗らせたくない。
社内の公用語は英語のため、日本語を滅多に使わないがこの場では使うべきと判断して。
どんな折衝相手でいても構わず、ニコリと笑顔で切り抜けて来た経験を行使するだけだ。
「ふーん。やっぱり修ちゃんのストッパーか、」
「あの…、仰る意味が、」
「クック…、日本に帰りたいって煩かったしねぇ」
「・・・はぁ、」
すると暫くの沈黙ののち、口元を緩ませて破顔したチーフに緊張の糸が解けてしまった。
気の抜けた声が漏れればそれが可笑しかったのだろう、また口角を上げて笑ったチーフ。
「ところで探しモノは良いの?早く行かないと、問題児がまた消えるよー?」
「あ!」
「ちなみに参考情報だけど。ガキんちょはね、拗ねるといつも行くところがあんの。
本社ビルの20階に俺らの研究室があるから、そこ行ってみたら?間違いなく居るよ」
“プリウスちゃんがある限り、俺の読みは間違いない”と言い切った彼が差し出した物。
それは試作部で利用するIDカードらと全く違い、随分とゆるいセキュリティカードだ。
「これで研究室は入室OK――コッチより遥かにゆるゆるなんでね。真帆ちゃんに貸すよ」
「あ、ありがとうございます」
お礼を告げながら受け取れば、ニッと口角を上げたチーフが先にその場から歩き始めた。