エリートな貴方との軌跡


こうしていられない、と試作部から離れたものの、ループバスはどうやら発車した直後。



次の便を待っているのも退屈だと思いながらも、日中あまり見られずにいた周囲を見る。



以前――修平が言っていたように、試作開発の私たちがこうして研究に取り組めるのは。



想像以上のスケールと設備で昼夜を問わず励んで下さる、ワーカーの力があってこそで。



私たち開発部門から途切れることなくバトンが渡って、そして売上と利益が確保される。



またどの部署にしても然り、自身の働いている部署を念頭に置いて考えてしまうけれど。



たとえば私が今回こうして出張へ来れたのも、総務部や海外事業部などの力添えがあり。



だからこそ、全ての部署が連携を取り合っていかねばならないのだと常々痛感している。



会社は多種多様な人の集まりであるゆえ、決して独りでは成しえない考えを生み出せる。



どうやって歩み寄るか…、確かにこれはとても難しい。それでも、逃げてしまえば負け。



穏やかな気持ちでそう考えていれば、ようやくループバスが停車地へ到着して乗り込む。



これもまた環境配慮された電気自動車のため、静かな空間の中で揺られ本社へ向かった。



暫くして一際目立つ高層ビル前で停車したバスを降りた私は、IDを利用して中へ進む。



さすがの本社とあって、日本支社以上に国籍いっさい関係なく大勢の人々が働いている。



大神チーフから伺っていた階でエレベーターを降り、さらに研究室を目指し社内を歩く。



誰とも知らないであろう私にさえ、ニコリと微笑みかけて挨拶をくれるから嬉しいもの。



暫く進んだ先で見つけた部屋の前で止まり、再度プレートの名前を確認してノックする。



「勝手に入れば」


ノック音ののち幾許かしてドア越しに届いた声音は、さすがにビクリとするほど冷たいものだった。



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