エリートな貴方との軌跡
“失礼します”と告げ入室すると、化学薬品の入ったビーカーを片手に見つめている彼。
「…その、」
「なんの用、」
振り向きもせずそれに夢中、というより私の顔を見たくないという思いが伝わって来た。
「それって…、さっき平さんが届けてくれた品?」
「だったら?大体また近づいても良いの?」
ビーカー内の液体をゆらゆら揺らしながら言う碧眼の瞳は、一切こちらを向くことない。
今の言葉は“キス以上のコト”すると牽制していたのだろうが、もう怯んだりしない私。
ここまであからさまな態度を取られると、もはや清々しい気分になるから不思議なもの。
「私ね、仕事が好きなの」
やっぱりキスされたことは腹立たしいけれど、この場で持ち出すのはそれこそ負けだ――
「は?唐突だね」
「ふふっ、よく言われる」
「意味分かんない」
明らかに呆れながらようやくコチラへ向けられた眼差しは、嘲笑っているようだけれど。
よく唐突な行動が多い、と周囲に指摘されているから構わずに、クスクス笑うのみの私。
事実を否定する方が愚かで、自分に嘘をついて生きる方が窮屈ではないかと思うからだ。
そんな私からまたふいと視線を逸らしたものの、“座ったら?”と近くの席をさした彼。
ありがとうと言って椅子へ腰を下ろすと、ジョシュアは液体と別の液体の化合を始めた。
こうして試作開発を行っている時――正直言えば報われることの方がごく僅かだけれど。
修平というヒトに出会い、その彼にこの職場へ導いて頂き、仕事の喜びを教えて貰った。
それは紛れもない事実であり、今となっては誇りであるのだから胸を張って言いたいの。