エリートな貴方との軌跡


親友の瑞穂を除いた、周りと同意見のジョシュアにも否定したかったけれど止めておく。



「そうかなー。当の本人は天国から突き落とされたぐらいショックだったのよ。

とにかく研究や開発がしたくてこの会社を目指していたから、…ほんとうに入社すぐに辞めようとしていたの」


「うん、マホの性格なら有り得るね」


“かなりマジメだし”と、ようやく破顔して穏やかな表情を見せた彼に些かホッとする。



そして席を立った彼は、コーヒーメーカーから熱いブラック・コーヒーを淹れてくれた。


「はい、どうぞ――リヒトの部屋みたいに美味くないよ」


「ううん、とんでもない。喉が渇いていたからありがとう。

それにチーフの淹れて下さるコーヒーって、スペシャルだよね?」


コトリと音を立て机上に置かれたカップは、日本でもよく通っているカフェのロゴ入り。



自分の分は手に持ったまま、再び椅子に腰かけたジョシュアと隣り合うことになった…。


「ああ、やっぱり聞いてんの?

リヒトが“大好きなヤツ”のお気に入り――で、スペシャルらしいけど」


「うん、ライバル多いよねぇ」


何かにつけ皮肉った言葉を吐くけれど、それをすべて真に受けて腹を立てるより笑おう。



一度ふっ切れてしまうと、意外にジョシュアと対峙することがさほど苦痛でないようだ。



温かいマグカップから立つ、白い湯気と芳醇な香りを喉を潤すようにコクリと流し込む。



「でもね…?そこで黒岩部長…、当時は課長だったけれど。

彼に出会ったのは、秘書課に配属されたことがキッカケだったの」


「なに自慢か惚気ばなし?なら聞かない」


「ううん、そうじゃなくて。
その頃の私って、駆け出しの社会人のクセにね。自分が出来るとか生きがっていたのよね。

だから、研究員になれなかったことばかりに固執して…、きっと秘書課での態度はそう良いものじゃなかったと思うわ」


眉を寄せて不快感を露わにする彼に首を振ると当時、ひどく粋がっていた自身を省みる。



< 206 / 278 >

この作品をシェア

pagetop