エリートな貴方との軌跡
親友の瑞穂を除いた、周りと同意見のジョシュアにも否定したかったけれど止めておく。
「そうかなー。当の本人は天国から突き落とされたぐらいショックだったのよ。
とにかく研究や開発がしたくてこの会社を目指していたから、…ほんとうに入社すぐに辞めようとしていたの」
「うん、マホの性格なら有り得るね」
“かなりマジメだし”と、ようやく破顔して穏やかな表情を見せた彼に些かホッとする。
そして席を立った彼は、コーヒーメーカーから熱いブラック・コーヒーを淹れてくれた。
「はい、どうぞ――リヒトの部屋みたいに美味くないよ」
「ううん、とんでもない。喉が渇いていたからありがとう。
それにチーフの淹れて下さるコーヒーって、スペシャルだよね?」
コトリと音を立て机上に置かれたカップは、日本でもよく通っているカフェのロゴ入り。
自分の分は手に持ったまま、再び椅子に腰かけたジョシュアと隣り合うことになった…。
「ああ、やっぱり聞いてんの?
リヒトが“大好きなヤツ”のお気に入り――で、スペシャルらしいけど」
「うん、ライバル多いよねぇ」
何かにつけ皮肉った言葉を吐くけれど、それをすべて真に受けて腹を立てるより笑おう。
一度ふっ切れてしまうと、意外にジョシュアと対峙することがさほど苦痛でないようだ。
温かいマグカップから立つ、白い湯気と芳醇な香りを喉を潤すようにコクリと流し込む。
「でもね…?そこで黒岩部長…、当時は課長だったけれど。
彼に出会ったのは、秘書課に配属されたことがキッカケだったの」
「なに自慢か惚気ばなし?なら聞かない」
「ううん、そうじゃなくて。
その頃の私って、駆け出しの社会人のクセにね。自分が出来るとか生きがっていたのよね。
だから、研究員になれなかったことばかりに固執して…、きっと秘書課での態度はそう良いものじゃなかったと思うわ」
眉を寄せて不快感を露わにする彼に首を振ると当時、ひどく粋がっていた自身を省みる。