エリートな貴方との軌跡


ひとまず形式的に仕事は覚えないと、とは。いま思うと新人の身分でよく考えていたわ。


「何となく想像出来るよ――かなり頑固だし」


「あー、やっぱり?…でもね、今になって痛感しているのよ。

その秘書課で学ばせて頂いた僅かのことが、すごく人生に活きているなぁってね」


「どーいうトコが?」


ひとまず機嫌が直ったらしいジョシュアにクスリ笑うと、薬品だらけの部屋を見渡した。



それらに囲まれて独特な香りのする室内に身を置けば、その度に安心する自分がいたり。



薬品棚に眠るあれとあれを化合すれば、…などとワクワク感を拭えなかったりもする私。



「たとえば…、電話応対や接客、そしてスケジュールの組み立て方にしても然り…。

日常で当たり前のとっても些細なことが、今の業務で大いに役立っていると思うんだ。

ごく当たり前の行為が人より上質であれば、それだけで煩わしさが少し解消されるもの。

決して試作部で学べない事柄がプラスに働いたこともね…、思い返せばたった数年の間で数え切れないから」


だけれど、この仕事に就かせて頂けるキッカケは紛れもなく秘書課の日々のお陰である。


「マホらしいね。何でもプラスに転じるのは」


「んんー、そうでもないよ?

結構ポジティブに見られるけど、本当のところはネガティブ子だもの」


「――ぷっ、ネガティブ子って何?」


「メンドウな女、イコール私の代名詞」


「うーわ、自分で言っちゃった」


「えー、ホントの事だもの」


虚勢を張って生きていくのも、ステイタスを求めて生きるのも今の私にはバカバカしい。



上昇志向であることは生きていくこと、また仕事をする上で大切なスタンスだけれど…。



因みにこの代名詞は、天然由来の小悪魔や妹と呼んで下さる方々から言われたのでなく。



入社後にそう気づいた自身でつけたもの。仕事にしても恋愛にしても挫けていたから――



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