エリートな貴方との軌跡
フフッと笑いながらマグカップをまた傾けると、ジョシュアもまた小さく笑ってくれた。
「でもね…、スキルあれこれ以上に大切なものがあるの」
「それが“シュウ”ってワケ、」
「ううん、違うよ」
嫌そうに名前を言った彼にクスクス笑って否定し、コトリとマグカップを机上へ置く私。
「だって、秘書課の先輩だもの」
「は?」
「その人――絵美さんっていう先輩なんだけど。
すごくすごく信頼のおける先輩に出会えたことが、私にとって感謝していることなの」
怪訝な面持ちではあるものの、どうやら見当外れであったことが悔しかったのだろう…。
「ほら試作部――特にこの部署は、特にここでの取り組みが功を成す部署ではあるけれど…。
だからこそ、事細かに社会人としての基礎を教えて頂けるほど暇はないわよね?」
「そうかな?それを学んで来るのは入社前でしょ」
「ふふっ、そうなんだよねぇ。
でもね私、大学時代も甘えてばかりで、…人としてすべき努力を怠っていたんだ」
ただ理系分野が好きで、絶対合格を掲げて臨んだ受験。めでたく実を結んで入った大学。
でも相対的に女子の少ない中でチヤホヤされ、勉学では知れない大切なものに気づけず。
卒業後はどこかの研究施設で働こうと、目先のことばかりで凄く人生を軽く考えていた。
だからこそ、入社した直後に出鼻を思いきり挫かれて、今となっては良かったと思う…。
「んー、マホが努力を怠ってた言うなら、俺の方が堕落してたと思うよ?
バイトもしてなかったから、キャンパス以外はセックス・ライフでさぁ。“ソッチ”関係は日々忙しかったしね」
「…ほんと、デリカシーない!」
「だってさっきの話――マホも一緒ってコトでしょ?」
「…もう、」
彼の凄いところは話を聞いていないようでいて、実はその先まで見抜いていることだ…。