エリートな貴方との軌跡
初めて入室した試作部のミーティング・ルームで、2人で話をしたことも懐かしいな…。
「私をこの仕事に導いて下さったのは絵美さんでも。この仕事の本質を教えて下さったのは彼だから」
「どーいう意味?」
「試作部に引き入れてくれたのは彼なの」
手帳に挟んだ欠かせない万年筆と、今もなお填めている指輪はふと安心感を誘うものだ。
“待っていて欲しい”と、修平から男よけに頂いた指輪も。迷いに迷って私が贈った、お揃いの手造り万年筆も。
どちらも色褪せて来ているけれど、それが年輪を刻んでいるみたいで大切な思い出の品であるから…。
「…へー、」
机上の資料を手に取ったジョシュアは、パラパラそれを捲りながらも話は聞いているらしい。
此方からしてもその方がありがたいと思いつつ、コーヒーを飲み終えてから話を進めた。
「…こんな私の盾になってくれたことが数え切れないほどあって。でも、それを億尾にも出さず笑顔でいつも温かく受け入れてくれたの…。
私はずっとずっと好きで、…でも彼のことは尊敬すべき上司だからと諦めも働いていたんだ。
誰かれ構わずとても優しくて、でも自分の信念を曲げない人だから…、部下として面倒を見て下さってるんだって。
…でも、色々あってようやく想いが通じた時――彼のプライベートを覗かせて貰って初めて、本当の彼のことを知ったことに気づいたの。
それまでは困難に屈しない、すごく強い人なのだとばかり思っていた。…けれど、彼の抱えていた苦しみに触れた時にね。
私がこの人を守りたい…ううん、絶対に守るべき人なんだって心の底から思ったの。
…だからね、自分の弱さを受け入れてくれて、でも強くなれる力を与えてくれる――くろ…修平しか私はムリなの。…て、ジョシュアどうしたの?」
改めて言葉にするのは恥ずかしい、とずっと感じていたのに。今日は明らかに饒舌だわ。
話し終えた直後からそう反省していると、席を立ったジョシュアが徐に出入口のドアへ向かう。