エリートな貴方との軌跡
言ってしまった…、と口にした先から後悔する――子供染みた小さなジェラシーだもの。
「…笑わないでよ、」
さらに隣り合って乗車していた修平より、クスリと小さな笑い声が耳に届けばなおさら。
「いや…、要らない嫉妬をされるのも嬉しいな」
「…いつものことだもん、」
爽やかな声音でアッサリ言いのけた彼の眼を見れば、その優しい顔にはやはり敵わない。
「それを言うのは俺のセリフ、」
「…ふふっ、2人して何言ってるんだろうね」
思わず力が抜けて笑ってしまった刹那。ダークグレイの瞳との距離をグッと縮められた。
「ひとまず消毒、な?」
わざとリップノイズを立てつつ落とされるキスに、思わず両手で口を覆ってしまった私。
タクシーでの一瞬の出来事で、“なに!?”の言葉を呑みこみキョロキョロしていると。
「会社でしなかっただけ良かっただろ?」
「あ…っ、当たり前でしょう!?」
「怒ってるように見えないよ」
「もうっ、」
イタズラに微笑を見せる修平にドキリとしたものの、ようやく反撃の狼煙を上げたのに。
油断も隙もない、と彼の眼をジーっと睨んだところで、すっかり防御態勢を解いていた。
飄々とかわす大人の彼の指がクイと顎を捉え上げ、言葉はすべて唇を封じられて叶わず。
「――隙あり」
「…しゅっ、」
先ほどより水音の立つキスの後、ニヤリと愉快気に口角を緩めた修平から目が離せない。
「真帆が思っているより、俺はずっと子供なんでね?」
“もう一度”とチュッとキスを落とされれば、その一言が示す悦びに酔いしれたくなる。