エリートな貴方との軌跡
清算を済ませた修平が、首を捻っている私の手を引いて車外に連れ出してくれたものの。
「どうしたの一体?」
「ドレス――買ってないだろ?」
「え?ドレスならホテルに、」
家族旅行の際もパーティーの盛んな海外へは、パーティー用のドレスを持参している私。
今回も当然のようにトランクへ入れて来ていた。もちろんパーティー・バッグと靴もだ。
ロンドン育ちゆえタータン・チェック好きだから、すべてバーバリーで揃えて来たのに。
「――ほら、」
優しいダークグレイの眼差しで誘われれば、その大きな手をキュッと握り返してしまう。
とても穏やかな性格の彼だけれど、こういう時は頑として譲らないのは知り得ている――
世界でも有名なブティックが軒を連ねる通りを眺めながら歩き、その中の一軒へ入った。
すると彼が出迎えた女性店員さんへ流暢に指示を出せば、頷いた彼女がその場を離れた。
ソファに腰を下ろしてから店内を見渡すと、シンプルでいて華やかな雰囲気に包まれる。
ディスプレイされている洋服も小物類もすべて、可愛くてどこかセクシーなデザインだ。
「このお店、すごく可愛い。…よく知っていたね?」
有名なブランドはそこそこ分かるのだけれど、このお店の名前はあいにく初耳であった。
「それは良かった――ひとつ念願叶った」
「…どういう、」
「ああ、コッチに住んでた頃さ…、通り掛かる度に似合いそうだなと思っててね?
せっかく来たからには、連れて来たいなってずっと考えてた」
ふっと口元を緩めた修平の言葉に胸が一杯で、たまらず彼の手をまた強く握ってしまう。
帰りを待っていた2年間――お互いに知らないことが山とあるけれど、徐々に埋めたいな。