エリートな貴方との軌跡
ようやくベントレーへ全員が乗り込むと、静かにその車はペニンシュラを出発して行く。
チーフの隣となる助手席には修平が、そして後部座席はジェンと私の2人が座っている。
車内のBGMはジェンが長年ファンだという、ブリトニーの曲が小さな音で流れていた。
「私もこの曲好きよ。前よく聴いてた」
「ホント?私もこの曲が一番好きだけど、彼女がカムバックした時は嬉しかったわー」
「うん、今もキュートなシンガーだよねー」
「でしょうっ!?彼女はアメリカの生んだ、スーパー・キュート・アイドルよ!」
うんうんと頷いて返せば、“リヒトは聞き流す”と言ってブリトニーについて話す彼女。
ちなみに私もブリトニーのポップな曲調が好きで、オススメを言い合って盛り上がった。
それに一時期はどん底を味わったという、ブリトニーの進化もまたジェンのツボだとか。
むちむちとしたボディにキュートな顔と声色なのに、歌詞は強気なギャップが堪らない。
“ブリトニー大好き”と連呼するジェンの熱意に圧されていた時、溜め息が車内に響く。
「真帆ちゃん、疲れたでしょ?オタクに付き合わせてゴメンねぇ」
安全運転で夜のシカゴの街並みを進むチーフの声が、会話の切れた所で飛び込んで来た。
「リィ待ちなさい。ブリトニーのドコに、オタク要素があるのよ?」
「ブリトニーは違うって言ってんじゃん。問題あるのはジェンだけ」
運転席のシートを掴んで尋ねるジェンに対し、サラッと憤慨させる発言を返したチーフ。
「あらそう――明日の朝になったら、何かが消えるわよ?」
「フィギュアが消えるその前に隠すもんねー」
「隠し場所でもあるの?2人の共有スペースばかりよ?」
「さあねぇ?」
言い合いに決着がついた時、“リィは本当にヤな男だわ!”とシートへ座り直すジェン。
私が何処へ視線を置くべきか思案していたところ、助手席の修平が此方に視線を向けた。
“いつもの事だから”と俄かに苦笑する彼に頷いて見せると、フッと小さく笑っている。