エリートな貴方との軌跡


メイクも落とさず眠ってしまったのだ。ものの見事に崩れているだろう、と諦めていた。



だがしかし、ドレッシング・エリアで対面した顔は、想像していたほどの崩れでは無い。



これは間違いなく、プロのお姉さん直伝のリリィが施してくれたメイクのお陰だと思う。



感心しながらオフしてバスルームへと入ると、バスタブに浸かっている彼とご対面した。



私がメイクオフする間に、髪と身体を洗い終えていたらしい。やはり、カラスの行水だ。



すると洗髪している間に“熱くなった”と言って、バスタブからササッと出てしまった。


「…で、どういうコト?」


長風呂派の私は1時間以上、浸かって居られるのにな、とトリートメントをしつつ思う。


「実は昨日で全部、予定していた事案は終わったんだ。

今日はフリーだから、2人で観光しようってコト」


「うそっ!」


彼が“嘘は吐かないよ”と返せば、少し熱めのシャワーの水流が肌を小さく打ち始めた。



彼の手が頭を撫でるように動き、髪の栄養補給をしていたトリートメントは流れ落ちた。



手先が器用なことも一理あるだろうけれど、修平に髪を手入れされると気持ち良くなる。


「…はい、終わり」


「ありがとう」


肌にお湯を感じなくなった瞬間。終了の言葉で目を開ければ、頬と首筋にキスが落ちた。



これが“見返り”と何時も言うから、なんて安いものだろう?寧ろ、私が幸せな褒美だ。



もちろんこの後に肌を重ねるのは流れのひとつ。ただ今日は、これから観光へ行く予定。



「名残惜しいけど、…夜にね」


「っ、」


そのせいか胸までキスを続けて顔を上げた彼があまりに妖艶に笑ったから、息を呑んだ。



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