エリートな貴方との軌跡
ふふっと頬を緩ませつつ手に力を込めれば、それに気づいた彼が“どうした?”の表情。
「何でもないよ。早く行こう!」
大好きなダークグレイの眼差しへ満面の笑みを浮かべて言うと、先を急ぐように進んだ。
オーシャナリウムは北西部の太平洋岸の生物系態を再現し、海へ彷徨い込んだ気になる。
その中でアンダーウォーターギャラリーでは、イルカたちの水中での動きを観察したり。
海洋生物たちが自然界でどのように生きているのか。その答えを目で見ることが出来る。
「イルカかわいいー!あ、ペンギンもいるの!?」
「イルカの泳ぎって、こうして眺めると優美だな」
「うん、本当だね」
巨大水槽を見上げている彼の横顔をチラリ一瞥すれば、翳りのある眼差しを向けていた。
彼の考えることを分かりたい知りたい。そう感じても、踏み入れてならない領域がある。
だから、この表情(かお)を見た時は何も言わない。それが相手を尊重すると思うから。
「こういう所ってさ、…康太が好きだったんだ」
「康太さん、が?」
ふと切り出した修平が此方へと視線を移す。意表を突かれた私は反芻することが精一杯。
頷いた彼の視線はまた、水槽の中で動き回るイルカへと戻った。ただ私は見つめるだけ。
「…康太が落ち込んだ時に決まって行っていたのが、名古屋港水族館。
他のブースには目もくれずにイルカショーだけ見ては、いつも同じこと言ってたんだよ」
「同じ、こと?」
「そう。…“イルカが人を魅了するパワーは無限大。そのイルカからパワーを貰った人の力はさらに無限大。
あーやっぱりすげぇよ。何度見て感動するな――自分の悩みなんかミジンコ以下だ!”ってね。
多分アイツ今ごろ…、天国で好きなハンバーグ食いながら眺めてるかもな」
「――うん、…修平の幸せな顔を見て安心してくれると良いね」
自由に優雅に泳ぎ回るイルカを見つめながら以前、写真を見せて貰った康太さんを思う。