エリートな貴方との軌跡
それは修平と康太さんが2人、肩を組み合い笑っていた高校の文化祭の時の光景だった。
あどけなさと幼さの残る2人が映った写真はこれが最後だった、と彼は大切にしている。
何度も飛び跳ねるイルカの力を信じていた康太さんが、自ら命を絶ったのは暫くあとだ。
「むしろヤキモチ妬いてるかもな――可愛い嫁さん貰いやがってってね?」
「ふふっ、そうだと良いけどなぁ」
親友だった彼を偲んでいたのだろう。ライト・ブルーの水槽を遠い目をして眺める修平。
“もしかすれば助けられたかもしれない”と誰もが抱く、“もしも”に苦しんで来た彼。
そのダークグレイの瞳の色がどこか儚く映り、思わず握っていた手に力を込めてしまう。
「真帆?」
「…康太さんのこと、ずっと忘れないためにも色々と教えてね。
名古屋水族館にも康太さんのお墓にも、…いつかまた連れて行ってね?」
そうお願いすると小さく微笑んでくれた。あとは言葉より、そっと彼の腕に寄り添って。
「俺と出会ってくれて、ありがとう…」
「それは私の方だよ」
「これからも毎日、…大切に生きような」
肩をそっと抱いてくれた修平に私の方が泣きそうだったけれど、ただ水槽を眺めていた。
今はただ前を向いて生きるしかない。生きている中で知れる幸せと喜びを味わうために。
またどんなに落ち込んでいても明日は来るから。だから人は皆、目の前にある道を進む。
立ち止まりたくなった時は、こうしてほんの少し温もりに甘えればすぐに笑顔になれる。
だからこそ日々を懸命に生きていきたいと思う。隣で支えてくれる人の笑顔の為にも…。
その後はイルカショーもあるというので会場へ行ってみたものの、混雑ぶりに断念する。
まだまだ賑わいをみせる水族館をあとにすると、仰いだ空は夜へ一歩ずつ向かっていた。