エリートな貴方との軌跡
市内にそびえ立つビル群も、夜に近づくにつれて色とりどりの華やかさに包まれている。
その中を2人で腕を組みながら歩いていると、目の前に広がる光景に何度も息を呑んだ。
「そろそろお腹は空いた?」
「…うーん、多分」
「真帆ちゃんの多分なら大丈夫だ」
“どうせ食いしん坊ですよ!”とそっぽを向けば、くすくす笑いながら電話を掛ける彼。
「…じゃあレストランへ行こうか?――少しだけ、この辺りを散歩したあとでね」
簡単に通話を終えるとブラックベリーを内ポケットへ仕舞い、そんな提案をしてくれた。
「うん、でも何処のお店?」
散歩というフレーズもまた疑惑ワードだけれど、“さあね?”と彼の笑顔に一蹴される。
こんな時は教えてくれないなと諦めて、辺りを少し歩けば穏やかな風が頬を掠めていく。
「気持ち良いよねぇ」
彼の腕から離れると、うーんと両腕を伸ばす。風に乗り湖の独特な香りが鼻腔に届いた。
髪もふわりふわり、なびいて身近な自然を味わっていた刹那。背後から抱き締められる。
「――この中より?」
「…此処はスペシャルよ」
「それは良かった」
修平の顎先が私の肩に乗せられて、吐息を感じながら、何でもないやり取りにまた笑う。
お互いにバタバタの日常では叶わない時間が、何より愛しくて回されている腕に触れた。
するとチュッとリップ音を立たせてのキスを頬に感じて、くすぐったいソレに微笑んだ。
湖を見ながら抱き締められていたところ、彼のブラックベリーが着信音を鳴り響かせた。
そっと腕を外して通話を始めた修平。すると今度は私の手を引き、その場を離れて行く。