エリートな貴方との軌跡
通話を終えた彼は歩くスピードを速め、私は少し早足でただついて行く形となっている。
“待って”の言葉を口に出かけた刹那。前方を歩いていた修平の足がようやく止まった。
危うく大きな背中へダイブしかけたものの、どうにか踏み止まった。そして彼を仰げば。
「真帆ちゃん、乗って」
「…これ、どうしたの?」
「たまには、ね」
悪戯っぽく笑うから私は目を丸くする。目の前にリムジン車が待ち構えていれば当然だ。
笑顔の運転手さんと彼に促されて乗り込むと、見た目以上にその内装と広さに驚愕する。
ひとまず革張りシートへ所在なく座れば彼がその隣へと落ち着き、静かに車は発進した。
すると立ち上がった修平は備え付けの冷蔵庫を開けて、シャンパンをグラスへと注いだ。
ウエルカムドリンクとして常備してあると言うそれを扱う事も、彼はどこか慣れている。
その他にはビールやウイスキー等のお酒からジュース類と、レパートリーも豊富らしい。
それをひとつ差し出してくれたので受け取ると、また革張りのシートへ腰を下ろした彼。
「真帆、ひとまず乾杯」
「…かんぱい、」
ひとまずシャンパングラスを掲げてから一口飲んだものの、グラスを両手で持ち替える。
「どうした?美味しくない?」
「…ううん、ビックリして」
このシャンパンの味は格別に美味しいと思うけれど、…この状況がいびつに感じるのだ。
「それが狙いだったもん」
「…どういうこと?」
「この車は、CEOが真帆に迷惑を掛けた償いにって用意してくれたんだよ」
彼は“だから遠慮する必要なんて無いよ”と重ねて、シャンパンを飲み干してしまった。