エリートな貴方との軌跡
この状況にあたふたしていたところへ、寝耳に水の言葉が降り掛かって頭は更に真っ白。
その傍らではシャンパンがお気に召したらしい彼が、自分のグラスへと注ぎ足している。
「ちょっと待って、」
「ん?」
「さっきの通話相手は…」
「ああ、この車の運転手さん――CEOお付きのひとりだよ。
今日は休みだったそうだけど、特別に出勤してくれたって」
「ええええ!」
「だから心配しないで良いよ」
そういう問題なの?とグラスを傾ける彼へ視線を送ったものの、同じくグラスを傾けた。
小さな気泡が弾けるシャンパンの爽やかさと、アルコール特有の後味をほんのり感じる。
「…それなら、楽しませて頂かない方が失礼よね」
「もちろん」
コクリと頷いた彼がシャンパン・ボトルから注いでくれた。だから今度は、笑顔で乾杯。
何事も恐縮するばかりではなく、好意をありがたく受け入れることも大人には不可欠――
それを私に分かって欲しい。と敢えてこの事を黙っていたし、車内での彼の態度も然り。
だからCEOと運転手さんのお気遣いに甘えさせて貰うことが、この場では正解になる。
予約したというレストランまでの道中は、2人で車窓からの景色を眺めて騒いでみたり。
仕事のことは一切忘れて、シカゴという街について彼から教えて貰える時間となった…。
停車したリムジンを下りると、丁寧にドアも開けてくれた運転手さんに改めて挨拶する。
穏やかな中年の男性のこの笑顔にきっと、CEOも日々癒されているんだろうと思った。
そして修平とともにとある高層ビルへ入って行く。乗ったエレベーターの行先は最上階。