エリートな貴方との軌跡


松岡さんが手を振る姿を捉えながら、バタンッと音を立てて閉まった会議室のドア。



そんな私には肩への心地良い重みと爽やかな香りが、圧し掛けられた状態で。



この重みというか重圧を…、どうすれば良いのよ――!




「しゅ…じゃなくて。あのですね…部長?

“場所が場所”だと思いますし、その…」


フロアに一歩出てしまえば、もう其処は戦場と化した試作部と目と鼻の先。



気まずさゆえにぎこちない笑顔で、チラっと一瞥するように上方の彼に請えば。




「吉川さんは体調が悪いんだし、気にする必要ない――」


「なっ…、ちが…!」


「ほら、カッカするとまた貧血起こすよ?」


「っ――!」


サラッと言いのける彼には、この状況を気にする素振りもゼロらしい。



そんな態度に立場も忘れてムッとした私は、自然と頬も膨らんでしまうのに…。




「…キッチリ説明するなら離すけど、どうする?」


こうして反論すら出来ない中で、その瞳と笑顔で条件を持ち掛けられれば。



「・・・ずるい…、です」


悔し紛れにそう呟きつつ、肯定の意味でコクンと頷いてしまう私も私だよ。




「じゃあ、またあとで…」


フッと綺麗に一笑して、ようやく肩を引き寄せていた腕を離してくれた修平。



コツ、コツと、革靴音を立て立ち去る彼のせいで、鼓動の制御はもう利かない…。




< 71 / 278 >

この作品をシェア

pagetop