エリートな貴方との軌跡
あのダークグレイの瞳で捉えられた挙句に、笑顔を見せつけられてしまうと。
強情さがなりを潜めて何も言えなくなるのは、惚れた弱みだよね――…
「もぉ…、サイアク…」
修平と別れた直後に向かったのは、眼前の試作部内ではなくパウダールームで。
大きな鏡面に映し出されている自分の顔には、もう溜め息しか出ない悲惨さだ。
すっかり忘れていたけれど、どう差し引きしても曝け出すのは耐えられない。
というより、見せつけられた周りの方が、存分に迷惑すること請け合いだもの…。
すっかりナチュラルと化した目元は諦めて、手持ちのパウダーで補正していれば。
就業中ともあり静かなパウダールームのドアが、ガチャッと音を立てて開いた。
「あれ真帆ちゃん、まだ帰ってなかったの?」
「え、絵美さーん」
その直後に聞こえた声でリタッチの手を止めてから、ドアの方へと振り返れば。
事態を別の方向へと拗れさせた…、もといルックキラーの絵美さんの姿を捉えた。
「メイク直しは良いから、早く帰んなさい!
仕事なんてね、あのバカがやるんだから」
「えー…」
「何もしないで可愛いんだから、イチイチ気にしない!」
彼女はドアを閉めるとズカズカ直進しながら近づいて来て、そう言い放つ。
歩きながら話す絵美さんは“せっかち”だと言うのは、強ちウソではないようだ。
私はリップすら塗り直せないまま、絵美さんに腕を取られてルームをあとにした…。