エリートな貴方との軌跡


あのダークグレイの瞳で捉えられた挙句に、笑顔を見せつけられてしまうと。



強情さがなりを潜めて何も言えなくなるのは、惚れた弱みだよね――…




「もぉ…、サイアク…」


修平と別れた直後に向かったのは、眼前の試作部内ではなくパウダールームで。



大きな鏡面に映し出されている自分の顔には、もう溜め息しか出ない悲惨さだ。



すっかり忘れていたけれど、どう差し引きしても曝け出すのは耐えられない。



というより、見せつけられた周りの方が、存分に迷惑すること請け合いだもの…。




すっかりナチュラルと化した目元は諦めて、手持ちのパウダーで補正していれば。



就業中ともあり静かなパウダールームのドアが、ガチャッと音を立てて開いた。




「あれ真帆ちゃん、まだ帰ってなかったの?」


「え、絵美さーん」


その直後に聞こえた声でリタッチの手を止めてから、ドアの方へと振り返れば。



事態を別の方向へと拗れさせた…、もといルックキラーの絵美さんの姿を捉えた。



「メイク直しは良いから、早く帰んなさい!

仕事なんてね、あのバカがやるんだから」


「えー…」


「何もしないで可愛いんだから、イチイチ気にしない!」


彼女はドアを閉めるとズカズカ直進しながら近づいて来て、そう言い放つ。



歩きながら話す絵美さんは“せっかち”だと言うのは、強ちウソではないようだ。



私はリップすら塗り直せないまま、絵美さんに腕を取られてルームをあとにした…。




< 72 / 278 >

この作品をシェア

pagetop