エリートな貴方との軌跡
何度否定しても“小悪魔”と言う修平に根負けし、スルーする事を覚えたけれど。
彼と出会って何年経っていようが、切り返しだけは上手くなる兆しが無いわ…。
またひとつ無力な反撃をしたくても、一笑されては言葉すら失うでしょう…?
「っ、…役員なのに」
ようやくポツリと小さく吐き出せたモノですら、動揺なんて隠せる訳も無い…。
「親切は有り難く受け取る性質だから」
などと言いのける修平だけれど、私と松岡さんが働き詰めで心配するほど超多忙。
出張で日本に不在な事も度々ある程、各地を動き回る彼の体調面を心配していて。
だから今日の2人の厚意には、申し訳なさと感謝の気持ちとが相反しているの…。
ポンッと音を立てて到着を告げるエレベーターは、スーっと静かにその扉を開いた。
一旦フロアへ出れば、熱い視線を送る受付嬢や女性社員を視界に捉えてしまう。
もちろん、私の隣を精悍な顔つきで歩く修平へと注がれるモノなのだけれど…。
「…どうした?」
「いえ…、別に」
嫉妬したとは思われたくない私が、向けられた優しい眼差しに苦笑を返せば。
「色々楽しみだ――…」
至近距離の私にだけ届いたであろう、彼らしい誘いの言葉に高鳴りは止まらない…。
恥ずかしさから早く社内を抜け出す為、俯き加減でヒール音を立てて足を進める中。
ビジネスモードでフッと一笑した彼が、突然に立ち止まって携帯電話を取り出した…。