お前は俺を好きになる~気になる女の子~
入学式を終え、留美と別々の教室でホームルームを過ごし、1日の日程は全て順調にこなされていった。



なのにホームルームをしている間なぜか俺の頭にはあの子の残像が残っていて、彼女の存在が気になって気になって仕方がなかったんだ。



話した訳でも、目を合わせたわけでもない。


そんな未知数の彼女に惹かれているなんて、俺は頭がイカれてしまったのか本気で心配になった。



こんな感情は生まれて初めての経験。



だって…



相手は男じゃなく女。



確かに今まで女が気になってたのは認める。



認めるけど、他人に捕られたくないとか意味がわかんねぇ…



教室の後ろで視線がぶつかれば、娘の晴れ姿に浮かれ陽気に手を振ってくる母の顔。



壊れ物を扱うように、大切に俺を育ててくれた優しい母には悪いけど、今は手を振り返し構う気にすらなれない。



もう、そんな問題じゃないんだ。



俺は…



あの子に何をしたいんだ?



「これで今日の日程は全て終了します。明日も皆さん元気に登校してくださいね。では終わります」



担任になった小林先生のひと声で皆一斉に立ち上がり、挨拶と共に各自自由に解散する。



ざわめく教室には、緊張から解き放たれた生徒達の安堵の声が漏れ始めた。



「聖!やっぱあんたが一番美人さんだわ。お母さんますます鼻高くなっちゃう」



母は俺に近寄るなりニコニコ微笑み、感極まった言葉を投げつけた。



「普通おめでとうとか、お疲れ様が先じゃね?」



「あ~そうだね。入学おめでとう。そしてお疲れ様」



ちょっと天然で一本ネジの足りてない母は、俺の言葉をまんま復唱し、再び微笑んでいる。



俺は「自分の母ながら疲れる奴だ」と正直思った。
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