私が副担任を振り向かせるまで
「何? さっきの。」

1時間目の数学が始まっているのにも関わらず後ろから唐突に聞いてきた花乃子は切れ長の目を丸くさせようとした。

「あれは… うん。朝,人助けした人だよ;」

アタシは小声で,しどろもどろに言うしかなかった。あの後,彼とは目が合う度に反らされてしまい酷く落ち込んでいるのだ。

「本当に人助けしてたんだ。いい子には飴をあげよう!」

よく分からないノリで渡された飴を,こっそり受け取ろうとした時,花乃子に指を掴まれた。

「これ新作?」

ピンクに塗られたアタシの爪を見て花乃子は尋ねた。

「うん。よく分かったね。今回は春っぽく桜を描いてみた!」

両手を花乃子の方向へ向けると

「そりゃ分かるよ! 私,友里のネイルアート好きだもん♪ 指長いのに何でチビっこなんだろうね~!?」

悪戯に微笑んだ花乃子が言った。

「うるさいなァ;」

と黒板に向き直すと目の前に先生が…。

「"うるさい"? それはお前の事じゃわ,竹宮。じゃあ,これ解いて。」

しまった; 数学の平井に捕まると面倒だったんだ。今日,ツイてないなァ… アタシ。

「えっと… ん~…」

戸惑いながらチラリと花乃子のノートを見た。花乃子は指定された問題を全部解いていた。

「3ッ! 3です!!」

アタシは不安ながら答えた。平井はニヤッと笑って

「泉が後ろで良かったのぅ。」

と言った。本当に,そうだ。花乃子の方を向いてアタシは小さくお礼を言うと,

「後でジュース奢ってね♪」

笑顔で言われてしまった。頭が良い上に,しっかりしてらっしゃる事;

でも,こんな花乃子にこそ本当の事を言うべきなんだよね。

密かに,こんな事を思った9時35分の出来事。
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