黒い同居人
プロローグ~いつの間にか¨いた¨~
その日は蒸し暑い日だった。


深夜0:23。


彼女―――宮本のぞみは苛立っていた。





彼女は世間から見れば華やかな職場―――所謂アパレルの販売を仕事としていた。



スローなBGMが流れ、掃除が行き届いた清潔な売り場。

最先端のファッションを身に纏い、柔らかい笑顔でお客様をお出迎え。

様々な色やデザインの洋服達の前で悩むお客様に的確に、且つしつこくなくアドバイスをし、購入へと繋げる。

時にはお客様と世間話に華を咲かせたり、お客様のいない時間にはスタッフ同士で新作を試着しあったり、大して乱れていないカットソーを畳み直したり、陳列棚のホコリ取り、モップかけ等の掃除を行ったり…


一般の職種とは違う、華やかできらびやかな世界―――



のぞみは2年のアルバイト勤務から漸く、念願叶って正社員登用になった叩き上げだ。


元からこのブランドが好きで、『いつかこの店で働きたい!』という夢を持っていた。


勿論、正社員採用募集にも応募した。


だが、流石は超人気有名ブランドの社員募集。


採用されるのはほんの一握りだった。


のぞみはなんとか最終選考まで残ることができたが、惜しくも不採用。


それでも諦めることなく、アルバイトからの社員登用を目指し、アパレルの世界に飛び込んだ。





―――念願叶って早1年。


のぞみは後悔していた。


楽しかった筈の仕事。

ずっと憧れ続けて、やっと掴んだ夢。



しかし、社員という立場になり、のぞみの仕事は以前の倍以上になってのし掛かってくるようになった。


販売以外の売上に関する仕事。


本社からの指示・指導を後輩スタッフに指導する仕事。






―――今では売り場に立つことよりもパソコンの前に立つことの方が多くなっていた。
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