Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―
……意図的に思い出した訳ではなくて、キーボードに指を乗せた瞬間ふわって思いついたワードを打ち込んだだけだけど。
脳は忘れていたみたいだけど、体は日頃やっていたことを忘れていないみたいだ。
集計作業くらいなら…どうにか出来るはず。
「無理しなくて良いから、分からない所があったらいつでも連絡して?」
「分かりました」
ただ寝てるだけも退屈だし、丁度良い。
「それじゃあ、私はこれで……」
「え、もうお帰りになるんですか?今来たばっかりなのに」
会話が一段落し、レイコさんがそう切り出す。
その言葉に、俺よりも早く返したのが、兄貴。
「えぇ、この資料を渡すのが目的でしたし……この後会社なんです」
「大変ですね……」
兄貴の労るような声に、はい…と頷くレイコさん。
「本当はもう少し城戸くんとお話したいんだけどね。会社の近況も詳しく報告しておきたいから」
残念そうに言われ、俺も頷いた。
……と、その時。
また、ドアがノックされて黙り込む俺達。