Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―
横目に兄貴の方を見れば、口を挟んでどうにかしようとしているのか、
タイミングを探しているように二人を見つめていて。
俺は持っていた蜜柑をまた、口へと運んだ。
消えかけた蜜柑の甘酸っぱさがまた口内に広がった時。
「ごめんなさいね?」
レイコさんは、ニコッと……上品な笑みを浮かべて本城さんにそう告げた。
そしてそのまま俺と向き合って。
「私、ちょっと城戸くんの様子を見に来ただけだから。
企画の引き継ぎはもう他の人が引き受けてるし、城戸くんは仕事の内容もある程度覚えていたから、私が渡した資料のまとめをお願いね?また取りに来るから」
帰ろうとバックを肩にかけた。
「あ、はい。任せて下さい」
「よろしくね?」
はい、と笑えばそれに答えるようにグロスの塗られた口元が弧を描く。
レイコさんは、続いて兄貴、本城さんへと頭を下げ、部屋を出ていった。
閉まったドア。
帰っていったレイコさんから……また本城さんを見た時。
ドキッとした。
本城さんの顔が、泣きそうだったから。