Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―




横目に兄貴の方を見れば、口を挟んでどうにかしようとしているのか、

タイミングを探しているように二人を見つめていて。




俺は持っていた蜜柑をまた、口へと運んだ。



消えかけた蜜柑の甘酸っぱさがまた口内に広がった時。




「ごめんなさいね?」


レイコさんは、ニコッと……上品な笑みを浮かべて本城さんにそう告げた。



そしてそのまま俺と向き合って。


「私、ちょっと城戸くんの様子を見に来ただけだから。

企画の引き継ぎはもう他の人が引き受けてるし、城戸くんは仕事の内容もある程度覚えていたから、私が渡した資料のまとめをお願いね?また取りに来るから」



帰ろうとバックを肩にかけた。



「あ、はい。任せて下さい」


「よろしくね?」



はい、と笑えばそれに答えるようにグロスの塗られた口元が弧を描く。



レイコさんは、続いて兄貴、本城さんへと頭を下げ、部屋を出ていった。



閉まったドア。


帰っていったレイコさんから……また本城さんを見た時。



ドキッとした。


本城さんの顔が、泣きそうだったから。






< 109 / 162 >

この作品をシェア

pagetop