Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―




まるで必死に言葉を発するのを我慢するように唇を噛むように引き締めていて。



双眸はドアをぐっと見つめていた。



噛み締めている唇が傷つかないか不安になった。




……どうしたんだろう。



「……本城さん?どうした?」


「へ?」


「座れば?」



固まったままの本城さんに、声をかけてみれば気付いてくれたみたいで。




俺は椅子を指差す。




それでも立ったまま、ただ椅子を見つめる姿は、心ここにあらず。



座らないの?



そう思ってまた声をかけようと口を開こうとすれば。




「ちょっと飲み物買ってくる!」

くるっとドアの方に方向転換して、出ていってしまった。





……何だ?と思うよりも驚きと不安が大きい。



一瞬しか見えなかったけど。


本城さん、目が潤んでた……。




飲み物を買う為じゃなくて、泣くために出ていったんじゃないかって思う。




「……兄貴」


「ん?」



たった今出ていったドアを見ながら、兄貴に声をかける。




「本城さん、どうしたんだろ」






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