Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―
蜜柑
「俺、思い出した!」
病室へと入ってすぐ、「こんにちは―――」と挨拶する前に、涙が私を見て口を開いた。
「……何を?」
はい、と涙にかすみ草を渡しながら聞く。
思い出した、って何を?
私の事を?
「これ」
涙は、机の上に置いてあった蜜柑を手に取ると、ポンと上に放り投げる。
「蜜柑?」
「ん。俺、昔も好きだったよね?冬場になるとばあちゃん家から届いてさ。めっちゃ食ってた場面、思い出して」
目を細めて笑いながら蜜柑を手の上で遊ばせる涙。
「お祖母さんの家……どこにあるか思い出したの!?」
「和歌山」
……涙の記憶が少しずつ戻ってる。
「ねぇ、その、蜜柑を沢山食べてる場面が頭の中に浮かんだんだよね?」
「蜜柑食べてたらひらめく感じでパーっとね」
嬉しそうに話してくれる涙。
ねぇ、それって。
その場面って!
「食べてた場所は!?どこで城戸くんは蜜柑を食べてたの!?」
私は涙を覗き込んで聞く。
涙は、いきなり声を荒げながら聞く私を驚いた様子で見つめながら、「分からない」と答えた。
「……そっか」
「どうしたんですか?いきなり」
「ううん、何でもない。取り乱しちゃってゴメンね」